大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(行コ)58号 判決 1974年7月02日

横浜市港北区菊名町七一〇番地

第五八号事件控訴人

第六二号事件被控訴人

居関食品株式会社

右代表者代表取締役

居関稔

同市神奈川区栄町一丁目七番地

第五八号事件被控訴人

第六二号事件控訴人

神奈川税務署長

杉山健太郎

右指定代理人

中村勲

五味高介

門井章

佐々木宏中

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、当事者各自の負担とする。

事実

第一申立

一  第五八号事件控訴人、第六二号事件被控訴人(以下第一審原告という)

(一)1  原判決を左のとおり変更する。

2  第一審被告の第一審原告に対する昭和四三年度の昭和四五年六月三〇日付法人税額の決定及び無申告加算税の賦課決定(但し、昭和四七年七月一八日付裁決で、一部取消されたもの)は、課税所得につき金四二万七八六五円を超える金額を認定してなした部分を取消す。

3  第一審原告その余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(二)  第六二号事件の控訴を棄却する。

二  第五八号事件被控訴人、第六二号事件控訴人(以下第一審被告という)

(一)  第五八号事件の控訴を棄却する。

(二)1  原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。

2  第一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二主張ならびに証拠

一審原告において、前記「申立」において不服申立の範囲を限局したことと関連して、同原告主張の事業年度の法人税法上の所得金額の決定につき、同原告が物上保証人に対して求償債務を負担するに至り、よつて損金に算入されるべき金額は、原審における主張を訂正して、「抵当物件の最低競売価額から物上保証人に交付された剰余金を控除し、その額に法定利息金六万七四八一円(昭和四三年一〇月一二日から第一審原告の事業年度の末日までの分)を加えた合計金二九四万八二四五円である。」とのべたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決五枚目表末行に「低当」とあるのを「低価」とあらためる。)

理由

一  当事者間に争いのない事実は、原判決理由第一項記載と同一(但し、同判決八枚目表二行目「しなが」を「したが」と訂正する。)であるからこれを引用し、また国税不服審判所長が第一審原告の審査請求に対し、昭和四七年七月一七日付で裁決を下し、第一審原告が昭和四三事業年度中に負担するに至つた求償債務二六一万七四三四円のうち一五万五一二四円は損金の額に算入すへきものとして、さきになされた法人税額の決定および無申告加算税の賦課決定を右の限度で取消し、右年度の課税所得金額を三二二万九八六円と変更したことは、第一審原告の明かに争わないところである。

二  物上保証人がその担保に供した不動産を競売され、その所有権を失つた結果、債務者に対して取得する求償債権は、一個の債権ではあるが、内容的には、

(い)  抵当債権者らに対し競落代金が交付ないし配当され、その弁済に供された金額、

(ろ)  避くることを得ざりし費用、

(は)  その他物上保証人の蒙つた損害の賠償、

(に)  民法三七二条、三五一条、四五九条によつて準用される四四二条二項の規定中にいわゆる法定利息は、同項の「避くることを得ざりし費用其他の損害の賠償」に対しても附加されるべきであると解せられるので、右(い)(ろ)(は)の合計金額に対する免責のあつた日以後の法定利息、

を包含すると考えられる。

右(は)について説明を加えると、競売法による不動産競売の競売期日における手続は、公開主義がとられ一般人でも自由に競買申出ができる制度になつていることは言うまでもないが、そのように一般人の多数自由に参加できるようにこれを保障すべき措置は、実際上甚だ十分でなく、したがつてそこで行なわれる競売は、事実上一般市場における不動産取引と比べて著しく趣を異にし、その価格形成も特殊であつて、一般的に言つて、競売による場合は通常の取引におけるいわゆる時価よりも相当低い価額で競落されることがしばしばであり、少くとも当然に「競落価額が当該不動産の時価であると推認できる」という経験則がはたらかないことは、当裁判所に顕著である。また、通常の取引における不動産の時価というものも必ずしも自明なものではなく、普通はかなりの幅があるものであつて、裁判所は不動産の競売手続において経験の長けた鑑定人に鑑定を命じて、それに基いて最低競売価額を定めるが、その際の鑑定価額は、前述の不動産競売手続の実情に鑑みて、前述の時価の幅の中でかなり控え目な額で鑑定されるのが通常であるから、むしろ、裁判所から命ぜられた鑑定人が鑑定を誤つたとか、裁判所が鑑定を無視して最低競売価額を定めたとか、稀有の特段の事由の主張立証のないかぎり、最初の競売に際して定められた最低競売価額が当該不動産の時価を反映するものと推定するのが経験則に合するといわなければならない。そして、競売の結果、当該不動産が時価よりも安く競売されたとき、その時価との差額が、前述(は)の損害になることは言うまでもない。

三  そこで、以上の(い)ないし(に)の各項目を本件にあてはめてみると、成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証の二、同第二号証によると、

(い)  は、二四六万二三一〇円、

(ろ)  は、競売費用として九万七四四五円、

(は)  は、最初の最低競売価額から、現実の競落価額に利息を加えた額を減じ、その差額三二万一〇〇九円、

(に)  について、債務者の免責のあつた日とは、競落代金完納により不動産所有権が競落人に移転した日をいうと解し、その日である昭和四三年一〇月一二日から昭和四四年三月三一日まで一七一日分の、右(い)(ろ)(は)の合計金額たる二八八万七六四円に対する年五分の割合の法定利息として六万七四八一円、

であることが認められ、その合計額たる二九四万八二四五円が昭和四四年三月末日現在における第一審原告の物上保証人らに対する求償債務の額ということになる。

四  しかしながら、右求償債権のうち、右(い)にあたる部分は、第三者の弁済として、物上保証人らにおいて従前の債権者の債権を法定代位し、法律上当然にその債権が物上保証人らに移転するものであるから、債務者たる一審原告の立場から見て、実質上新たな債務を負担するものでなく、債権者の交替があつたに過ぎず、したがつて右(い)に該当する部分は、税法上一審原告の損失として損金に計上することはできない筋合いである。

すると、右求償関係の発生により、一審原告が昭和四三事業年度に蒙つた損金の額は、四八万五九三五円ということになり、これを損金に算入して計算すれば、一審原告の同事業年度における課税所得金額は二八九万一七五円となる。

一審被告は、前示裁決により原処分を一部取消し、その結果課税所得金額を三二二万九八六円と変更し、それに基く法人税および無申告加算税の賦課を決定しているが、以上にのべたとおり、同決定は課税所得金額について二八九万一七五円を超えて認定した部分について違法があり、該当部分の取消しを免れない。

よつて、右と同趣旨の原判決は正当であるから、本件各控訴を棄却すべく、訴訟費用は各控訴当事者各自の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 館忠彦 裁判官 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例